車いすの選び方で失敗しないために|作業療法士が現場経験から解説

介護・リハビリ

車いすを選ぶとき、どのようなことを基準にしていますか?

「自分で動かせる車いすがいい」

「介助しやすい車いすを選びたい」

「種類が多くて、どれを選べばいいのか分からない」

このように悩む方もいるのではないでしょうか。

車いすには、自走用や介助用、リクライニング式、チルト式など、さまざまな種類があります。

しかし、機能が多い車いすや価格が高い車いすが、必ずしも本人に合っているとは限りません。

私は作業療法士として10年以上働き、病院や通所リハビリテーションなどで、車いすの選定や調整に関わってきました。

実際の現場では、本人の身体機能だけでなく、自宅の環境や家族の介助負担、車いすの操作方法なども考えながら選定しています。

今回は、私が実際に経験してきたことをもとに、車いすを選ぶ際に確認しているポイントや、選定が難しかった事例について紹介します。

※この記事は、作業療法士としての経験を紹介するものです。車いすの選定は、身体状況や生活環境によって異なります。実際に選ぶ際は、担当のリハビリ専門職や福祉用具専門相談員などに相談してください。

車いす選びで大切にしていること

私が車いすを選ぶ際に大切にしているのは、本人の身体機能だけで判断しないことです。

例えば、自分で車いすを動かせる方でも、自宅の廊下が狭ければ移動しにくい場合があります。

また、本人にとって座りやすい車いすでも、家族が車へ積み込む必要がある場合、重すぎると介助負担が大きくなってしまいます。

そのため、私は主に次のようなことを確認しています。

  • 本人が自走できるか
  • 座位姿勢をどの程度保持できるか
  • 車いすにどのくらいの時間座るのか
  • 自宅の廊下や出入り口に十分な幅があるか
  • 段差の昇降が必要か
  • ベッドやトイレへの移乗方法
  • 家族が介助する場合の負担
  • 車への積み込みが必要か

同じ身体機能の方でも、生活環境が違えば適した車いすが変わることがあります。

スタンダード車いすの選び方

一般的によく見かけるのが、スタンダードタイプの車いすです。

基本的には、ある程度座位姿勢を保持できる方で検討することが多いです。

ただし、スタンダード車いすにも種類があり、私は自走能力や介助方法などを確認して選定しています。

自走用と介助用の違い

スタンダード車いすは、大きく自走用と介助用に分けられます。

自走用車いすは、後輪が大きく、ハンドリム(後輪の外側にある、手でこいで車いすを動かすための輪)を操作して本人が移動できるタイプです。

一方、介助用車いすは、一般的に後輪が小さく、介助者が押して移動することを想定したタイプです。

私は、本人が自走できるのか、あるいは介助が必要なのかを確認します。

ただし、現在の自走能力だけで判断するわけではありません。

実際に、手の力が弱くなった方でも、車いすの調整や補助具の工夫によって、自走できるようになった経験があります。

この経験については、後ほど紹介します。

自宅の段差や小回りのしやすさも確認する

車いすを選ぶ際には、自宅環境も重要です。

例えば、玄関などに10cm程度の段差がある場合、車いすの種類によって介助のしやすさが異なります。

後輪が大きい車いすの方が、条件によっては段差を越える際に扱いやすいこともあります。

ただし、段差の高さや形状、車いすの構造、介助者の能力によって安全性は変わります。

大きな段差を車いすのまま越えることには転倒などの危険があるため、無理に介助せず、スロープの設置なども含めて検討する必要があります。

また、自宅内で使用する場合は、小回りができるかも確認します。

廊下の幅や部屋の出入り口、方向転換する場所などによっては、車いすの全幅や全長が問題になることがあります。

そのため、車いすの寸法だけでなく、実際の生活動線を確認することが大切だと感じています。

軽量タイプが適している場合もある

家族の介助負担を考えて、軽量タイプの車いすを検討することもあります。

例えば、車いすを頻繁に車へ積み込む必要がある場合です。

主に介助する方が高齢であったり、持ち上げる力が弱かったりする場合は、車いすの重さが大きな負担になります。

ただし、軽量タイプは製品によって座面や背もたれのクッション性が十分でない場合があります。

そのような場合には、別途クッションを購入したり、レンタルしたりすることを提案することもあります。

軽さだけでなく、座り心地や姿勢保持も含めて考えることが大切です。

アームサポートやフットサポートの構造も確認する

車いすには、アームサポート(肘掛け部分)を跳ね上げたり、フットサポート(足を乗せる部分)を取り外したりできるタイプがあります。

このような機能は、ベッドなどへの移乗を行う際に役立ちます。

私は、移乗時にどの程度介助が必要なのかを確認し、本人や介助者が使いやすい構造を選ぶようにしています。

また、特殊な介助方法が必要な場合は、部品の固定方法や強度も確認します。

特に階段での移動などは危険を伴うため、車いすの構造だけで判断せず、専門職による評価と安全な移動方法の検討が必要です。

車いすのサイズと姿勢保持も重要

車いすを選ぶ際には、本人の体格も確認します。

私が特に気にしているのは、座面の幅や奥行き、背もたれの高さ、足の位置などです。

座面の幅が狭すぎると圧迫につながることがあり、反対に広すぎると姿勢が不安定になる場合があります。

また、座面の奥行きが合っていないと、深く座りにくかったり、膝の裏が圧迫されたりすることがあります。

座位姿勢をある程度保持できる方でも、長時間座っていると疲れて姿勢が崩れてしまうことがあります。

そのため、私は座った直後だけでなく、どのくらい姿勢を保てるのかも考えるようにしています。

さらに、クッションを追加すると座面が高くなるため、足底が適切に支持されているかも確認します。

座面の高さやフットサポートの調整は、姿勢だけでなく移乗や自走のしやすさにも関係します。

リクライニング式車いすの選び方

リクライニング式車いすは、背もたれの角度を調整できるタイプです。

私の経験では、全介助の方や、長時間の座位保持が難しい方などで検討することが多いです。

また、座位で血圧が低下するなど、循環状態に注意が必要な方に対して、姿勢調整の方法を検討することもあります。

ただし、血圧変動への対応は車いすだけで決まるものではありません。

医師や看護師などと情報を共有し、本人の状態に応じて判断する必要があります。

高機能でも操作が難しい場合がある

最近は、さまざまな調整機能を備えた車いすが増えています。

細かな姿勢調整ができることは利点ですが、その分、操作方法が複雑になることもあります。

実際に、ご家族が操作方法を十分に理解できていなかったり、説明しても難しいと感じていたりする場面がありました。

そのため、私は高機能なタイプだけでなく、操作レバーが少なく、調整方法が分かりやすいシンプルなタイプも検討します。

本人に適した機能があることはもちろんですが、日常的に使用するご家族が無理なく操作できることも重要です。

移乗するときに邪魔にならないか

リクライニング式車いすを使用する方の中には、全介助で移乗する方もいます。

その際、移乗方法によってはアームサポートを大きく退避させる必要があります。

私は、アームサポートが十分に下がるか、取り外しやすいか、車輪が移乗の妨げにならないかなどを確認しています。

機能として「跳ね上げ式」と記載されていても、実際に操作してみると使いにくい場合があります。

そのため、カタログだけでなく、実物を確認することが大切です。

チルト式車いすの選び方

チルト式車いすは、座面と背もたれの角度関係を大きく変えずに、座面全体を傾けられるタイプです。

リクライニング式が主に背もたれの角度を変えるのに対し、チルト式は座面を含めて姿勢を調整できる点が異なります。

私の経験では、姿勢保持が難しい方だけでなく、ある程度座ることはできても、体力的に長時間の座位が難しい方などでも検討しています。

例えば、休息が必要な方や、座位姿勢の調整が必要な方です。

また、介助量が多い方でも、循環状態などを確認しながらチルト式を選ぶことがあります。

リクライニングとチルトの両方を備えたタイプ

リクライニングとチルトの両方を備えた車いすもあります。

私は、姿勢保持や循環状態への配慮が必要な方に対して、両方の機能を持つタイプを検討することがあります。

下肢の位置を調整できるエレベーティング機能(脚を支える部分の角度を調整し、脚の位置を変えられる機能)を含めて選定する場合もあります。

ただし、リクライニングやチルト、エレベーティングの使用によって血圧変動が必ず改善するわけではありません。

身体状況に応じて、角度調整による影響を確認する必要があります。

また、調整機能が増えるほど操作が複雑になる場合があるため、ご家族が扱いやすいかも確認しています。

車いすクッションの選び方

車いすを選ぶ際には、クッションも重要です。

私は、本人の姿勢保持能力や活動性、褥瘡のリスクなどを考えて選定しています。

ウレタンクッション

ウレタン素材のクッションは、車いすで使用する機会が多いタイプです。

製品によって硬さや形状が異なり、身体を支える性能にも違いがあります。

私は、本人の姿勢が安定するか、動作の妨げにならないかなどを確認しています。

ジェルクッション・エアクッション

体圧分散を重視する場合には、ジェルやエアーを使用したクッションを検討することもあります。

ただし、体圧分散性能は素材の名前だけで判断できるものではなく、製品ごとの構造や調整状態によって異なります。

また、姿勢が崩れやすい方では、座面の安定性にも注意が必要です。

特にエアクッションは、製品によって空気量の調整や日常的な確認が必要になります。

ご家族や介助者が適切に管理できるかも考える必要があります。

クッションの厚みだけで判断しない

私は、褥瘡リスクや姿勢保持能力などを確認し、必要に応じて厚みのあるクッションを検討することもあります。

一方で、ある程度身体を動かせる方では、動作のしやすさを考えて薄めのクッションを選ぶ場合もあります。

ただし、厚みが8cm以上あれば十分な除圧効果が得られるという意味ではありません。

実際には、クッションの素材や構造、本人の体重、姿勢などによって体圧分散性能が変わります。

また、厚いクッションを使用すると座面が高くなり、足の位置や移乗方法に影響することもあります。

そのため、私はクッション単体ではなく、車いすと組み合わせた状態で確認するようにしています。

実際に経験した車いす選定の事例

ここからは、私が実際に経験した車いす選定について紹介します。

※個人が特定されないよう、必要な範囲に内容を限定しています。

手の力が弱くなっても、自走できるようになったケース

以前、車いすの自走はできるものの、手の力が弱くなり、操作が難しくなってきた方がいました。

その際、車いすの軽量化だけでなく、ハンドリムの形状や滑り止め、手袋などを検討しました。

実際に調整した結果、再び自走できるようになった方がいました。

この経験から、自走が難しくなったからといって、すぐに介助用車いすへ変更するのではなく、操作方法や補助具を見直すことも大切だと感じました。

もちろん、滑り止めや手袋を使用する場合は、手の皮膚への負担やブレーキ操作など、安全面の確認も必要です。

下肢切断のある方への車いす選定

下肢切断のある方に対して、本人が自走し、自分で移乗できるように車いすを選定した経験もあります。

このときは、小回りのしやすさに加えて、アームサポートが取り外しやすいかを確認しました。

また、操作部分のつまみが見えやすく、握りやすいことも重視しました。

細かな部分ですが、本人が毎日操作するものだからこそ、使いやすさが重要になります。

下肢切断のある方は、身体の重心が変わることもあるため、車いすの安定性や転倒リスクにも注意が必要です。

段差昇降が難しかったケース

車いすの選定で難しかった経験の一つが、段差昇降です。

段差を越える際には、本人の体格や車いすのタイヤの大きさなどを考えます。

しかし、実際には車いすの下部フレームが段差に接触してしまい、介助しにくいことがありました。

このような問題は、車いすの全幅や重量だけを確認していても気づきにくい場合があります。

段差のある環境で使用する場合には、車いすの構造や段差との位置関係も確認する必要があると感じました。

なお、段差昇降には転倒などの危険があります。実際の移動方法は、専門職による評価や環境調整を含めて検討することが大切です。

車いすは実際に試してから選ぶことが大切

私は、可能であれば複数の車いすを試してから選定するようにしています。

特に通所リハビリテーションで働いていたときには、福祉用具業者に2台ほどデモ機を持ってきてもらい、本人に合わせて調整することがありました。

同じような種類の車いすでも、実際に座ってみると姿勢や操作性が異なることがあります。

また、病院では、事前に患者さんの身体状況や特徴をケアマネジャーや福祉用具業者へ伝え、退院後の生活を考えながら選定しています。

フットサポートの高さも確認する

実際の現場では、フットサポートの高さ調整などについて、業者側が十分に把握できていないこともありました。

そのため、私は業者任せにせず、実際の座位姿勢や足の位置を確認するようにしています。

フットサポートの高さが合わないと、足が十分に支持されなかったり、姿勢に影響したりする場合があります。

また、足こぎで自走する方では、足底と床の位置関係も重要です。

車いすは納品されたら終わりではなく、本人が実際に使用する状態で調整することが大切だと考えています。

車いす選びで失敗しないために

ここまで、私が実際に確認しているポイントを紹介してきました。

車いすにはさまざまな機能がありますが、私は機能の多さだけで選ばないようにしています。

本人が使いやすくても、家族が操作できなければ日常生活で困ることがあります。

反対に、介助しやすさだけを優先してしまうと、本人が持っている自走能力や移乗能力を十分に生かせない場合もあります。

そのため、私は本人の身体機能、生活環境、介助者の負担などを総合的に考えて選定しています。

また、実際に使用してみて初めて分かる問題もあるため、可能であればデモ機を試すことをおすすめします。

まとめ|本人と家族が使いやすい車いすを選ぼう

今回は、作業療法士としての経験をもとに、車いすの選び方について紹介しました。

車いす選びで大切なのは、本人の身体機能だけでなく、生活環境や介助者の負担まで考えることです。

自走用や介助用、リクライニング式、チルト式など、それぞれの車いすには特徴があります。

しかし、機能が多ければよいというわけではありません。

実際に、車いすの調整や補助具の工夫によって、自走できるようになった方もいました。

一方で、高機能な車いすでも、ご家族が操作に苦労する場合があります。

本人ができることを生かしながら、家族も無理なく使用できる車いすを選ぶことが大切だと感じています。

車いすを選ぶ際には、担当のリハビリ専門職や福祉用具専門相談員などに相談し、可能であれば実際に試してから検討してみてください。

また、車いすと同様に、介護ベッドも本人の身体機能や介助方法に合わせた選定が重要です。

介護ベッドについては、別の記事でも紹介しています。

関連記事:介護ベッドの選び方で失敗しないために|作業療法士が現場経験から解説

 

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